教授コラム

次世代の皮膚科医をどう育てるか?
大阪大学皮膚科教授
片山 一朗

  本稿を書いている4月2日、今年の新しい大阪大学皮膚科入局者を迎える。皆さん明確な目的を持って皮膚科医への道を歩み始められる。彼らがそれぞれ、自らの皮膚科学を創り出し、次の時代を担ってくれることを願ってやまない。

さて昨年の東北地方の大震災以降、医療のあり方が問われ、災害時そして現代医療の中での皮膚科医の役割が見直されている。被災地で実際に患者の診療に携られた先生のお話を聞いたが、初期には外傷などの応急処置の知識が要求され、少し安定した時期には皮膚の感染症、褥瘡・潰瘍の管理、アトピー性皮膚炎などの慢性疾患の治療、そして入浴が出来ない事によるカユミのコントロールなどが必要とされたそうである。もちろん「手当」とも呼ばれる皮膚科医による皮膚のケアを介する患者の精神的な支えになることが何より喜ばれたとの言葉が心に残った。薬剤や医療機器が不足する中、最善の努力を果たされ先生方には心から敬意を表するとともにあらためて現代医療の中で皮膚科医が果たすべき役割が明らかになったと考える。

皮膚科の外来を受診される患者さんは主訴となる皮膚病以外にも全身的な疾患を持たれていることが多い。私自身、主訴以外の症候から全身疾患を見つけることも多々あり,皮膚科医の醍醐味と考えている。被災医療とも関連するが、多くの医師との連携が必要な疾患をもつ患者の治療で皮膚科医が果たす役割は大きく、また時にチーム医療のリーダーとしての責務を果たす場合も多い。かつて長崎大学に勤務をしていた時に、ある離島圏医療の病院長から皮膚科医の派遣を依頼されたことがある。その時にまだ皮膚科医としての経験が2〜3年しかないが、最も信頼できる先生(Y医師、その後M女性医師)の方に一人医長で勤務して頂いた事がある。周囲に皮膚科医が全くおらず、また充分な診療機器もなかった病院で、多くの皮膚疾患患者を診療する多忙な中で、受診患者の合併症を見いだし、他科に紹介することで病院の患者受診数を一気に増加させ、病院長から多いに感謝されたことがある。彼らの尊敬すべき点は自分が紹介した患者の検査や手術にも可能な限り参加し,他科の先生方と連携して患者の治療に当たられたことである。後日院長から聞いた話しでは、Y医師は外科のオペにもネーベンとして参加され、大学に戻る頃には素晴らしい皮膚科医に成長されていた。本来このような医師を育成することを目的とした初期研修制度ではあるが、残念ながら彼らのような医師は減少しているようである。先の震災での皮膚医の役割を考えた時、彼らのような医師を手塩にかけて育成していくことが我々指導者に要求されているのではないかとあらためて考えている。