FlashPixを用いた画像データベースの皮膚科診療現場への応用

西田健樹、土居敏明、吉川邦彦(大阪大学医学部皮膚科学教室)
西村喜久男(あさひ高速印刷KK)、岡本 泰(KKクイックス)、高居八一郎(東海ソフトKK)

日本皮膚科学会雑誌 第109巻12号 第2062-2065頁(平成11年11月)掲載
Reprinted from the japanese jurnal of Dermatology
Vol.109,No.12,pp.2062-2065,December 1999

 

はじめに

皮膚科にとって臨床写真の保存、整理は、非常に重要な意味を持っている。例えば、学会での症例報告や、論文投稿において優れた写真はそれだけで説得力を持つ。慢性の疾患の経過を追ったり、術前の状況を記録しておく事は、患者にとっても治療の手助けになりうる。また我々は未来に対しても貴重な資産として残す事も重要な意味を持っている。従来、この臨床写真は多くの施設で35mmスライド用フィルム(以下銀塩)にて撮影保管されていが、近年、急速なデジタル技術の進歩により、一部の施設で画像のデジタル化が試みられている。従来のフィルムに比べると画質はやや劣るが、銀塩写真にないデジタル記録特有の利点があり、そのディメリットを相殺している。今回、我々は、日常診療において撮影後の画像を簡便に登録できるデータベースシステムの作成を試みた。画像の保存形式に付いてはJPEG,FlashPix等の圧縮を比較した。また、CCDの方式の違う代表的なデジタルカメラ、N社の950とF社の560の画質を比較した。

 

臨床写真スライド整理の現状

当教室で行なわれている臨床写真の整理を簡単に示す(Fig1)。写真室で撮影と台帳記載され、フィルムは3日間ほど溜めてから現像のため業者に渡す。撮影が行われて約1週間後にスライドが出来上がり、研修医が貴重な時間をさいてスライドを暫定整理し、検討会提出後、選別されたスライドを秘書に渡し、各種情報をコンピュータ入力後ラベルを印刷しスライドに貼りつけ整理箱に入れて保管する。この間の一連の操作は最低でも1ヶ月以上かかる。長ければ3ヶ月を超える場合もあり問題は深刻である。また大きな問題としてスライドの「保管場所がない」と言う問題も深刻である。

【図Fig1】(Fig1) 大阪大学皮膚科で行われている撮影から標本整理

大阪大学で撮影される臨床写真は年間約10000枚程度である。このスライドの保存はスチール製の保存庫を使い約10ユニットを要する。(1U=W435×H115×D310) その占有容積は1年で0.15Gになるため過去50年分の容積は7.5Gとなり部屋を一つ占拠することになる。また、保管室は専用の空調設備もなく保存条件は決して良いとは言えない。古いスライドでは色落ち、スライドの糊の劣化によりフィルムの脱落、埃やキズ、虫食い等により使用に耐えないものも多い。尚、貴重な臨床写真程、使用頻度が高く紛失する率も高くなる。
 今回、我々はこのプロセスをデジタルカメラを使い効率を上げられないか検討した。Fig2に示す通り写真の保管(保存登録)からデータ整理までは撮影者自身が診察を終えた直後にパソコンに取り込むので今まで数十日かかっていたプロセスがほぼ瞬時といって良いほど短縮さる。また臨床画像の経年変化や紛失などは皆無になり効率が上がり検索抽出が銀塩写真と比べると飛躍的に向上し患者説明や経過観察に応用でき日常診療のツールとして多いに活用する事が出来る。このデジタル画像システムは銀塩写真に比べデジタル写真のデメリットを相殺するものである。

【図Fig2】Fig 2 デジタルカメラによる写真整理

銀塩写真に対してデジタル画像の利点

1・画像の保管
画像は記憶媒体(ハードディスク、MO、CD、DVD)に保管する事によって省スペース化が計れる。我々の施設では銀塩写真スライドの場合、年間撮影枚数約年間10000枚になる。これを保管庫に整理すると最低でも0.15Gのスペースを必要とする。臨床写真をデジタルカメラにした場合、1枚の画像を約5MBとすると現在市販されているDVDに保管した場合、一枚のDVDに非圧縮の画像が約1000枚の保管できる。これはマスターファイルとして保管し、日常使用する画像は画像サイズを横800ピクセルにし、JPEGにて約50KBに圧縮すると10年分の画像を1枚のDVDに保管し閲覧する事が出来る。

2・撮影時の画像確認

デジタルカメラの利点として銀塩カメラに出来ない画像確認がある。銀塩カメラの場合撮影された画像は現像処理が終わらないと見る事が出来ないが、デジタルカメラは撮影直後に液晶モニター等によって確認する事が出来る。高級機などはビデオモニター等に映し出す事が出来るのでより鮮明に撮影状況を確認できる。何れもリアルタイムで行う事が出来るので撮影の失敗はほとんど避けられる。

3・検索抽出性

銀塩カメラで撮影された画像は検索抽出を行う場合、病名、部位等がコンピュータに入力されていたとしても、実際のスライドの抽出はスライド保管庫から大変な労力を使い手作業で行わなければならない。また取り出したスライドは必ず後世のために返却しなければならない。しかし、デジタルカメラで撮影された写真は検索条件を入力すれば、その条件に合致した全ての写真を瞬時に抽出でき、年齢、性別、部位などの分類・並べ替えなども自由に出来る。またデジタル写真はデータをメモリー上に展開するだけでオリジナルデータを物理的に動かす事無く行えるので返却と言う作業は存在しない。

4・画質の劣化と紛失

最近の銀塩フィルムは乳剤の品質向上等によって退色も少なくなっているが、やはりスライドの経年変化は避けられない。また重要なスライド程、検討会や学会、論文投稿、講演などに使いその都度キズや埃が付く。また出来るだけ複製したものを使うのが原則だが、スライド原本の紛失も使用頻度に比例して大きくなる。デジタルカメラの場合は画像データをオリジナルから複製するかメモリに展開して使用するのでオリジナルに書き込みしない限りオリジナルを損なう事はなく、また故意に削除しない限り紛失もない。画質も撮影された画質より決して劣化することは無い。

 

5・経時的な変化の確認

銀塩スライドで保管していた場合、外来診察中患者に経過を写真で説明することは余程前もって準備しない限り不可能である。しかしデジタル化した画像は優れた検索能力と抽出性により特定の患者の画像を経時的に並べたり特定の部位について抽出する事も瞬時に出来る。

スライド整理用データベース

画像保管としてのデータベース登録は日常診療中に行われるもので、その操作が煩雑では使用に耐えない。今回使用したMedica pixはあさひ高速印刷、クイックス、東海ソフトと臨床画像データベースを共同開発し、画像登録などにドラッグ&ドロップを採用し直感的な登録が出来き、皮膚科学会の用語集に基づきすでに3,000語余りが登録された皮膚疾患名データベースを内蔵しているので病名登録も簡単に行える。Windows,Macintosh共に利用出来る市販のファイルメーカーのテンプレートを利用しているので将来の仕様変更や各施設に合わせた設計が可能で、未来へ資産として残すために貴重なデータ移行もファイルメーカーを使う事によって簡単に行える。(Fig.3)

【図Fig3】Fig.3 "Medica pix" βversion

データベースへの登録、保存画像はPICT,TIFF,BMP,JPEG等に対応でき標準でFlashPixに変換するので閲覧時に画像の拡大縮小が簡単に行える。または階層構造を持つため同程度のJPEG圧縮と比較してファイルサイズが約1.3倍になるが、必要な部分の画像データのみを取り出すのでデータ通信等で画像をやり取りする場合回線に負荷をかける事が少なく、将来インターネット上での検討会等に利用する事が出来る。(Fig.4)  尚、このFlashPix画像は第98回日本皮膚科学会総会CPCの臨床写真と症例14の組織写真に応用されている。URL http://derma.med.osaka-u.ac.jp/amjda/cpc98.html(ID,パスワードは日皮会誌平成11年3月号(総会抄録P-259)に掲載

【図Fig4】Fig.4 基本イメージとは別に縮小したイメージレイヤーを持ち、見たい部分を指定するとそのブロックだけをメモリーに読み込む事ができる。

臨床画像入力用デジタルカメラ
最近、次々と発売されるメガピクセルデジタルカメラの性能には目を見張るものがあるが本当にその性能を数値のみで信じてよいものか我々は皮膚科として検討してみた。検討に使用した機種はF社の560(Frametransfer:FT方式)とN社の950(Interlinetransfer:IL方式)で、画素数はF社が140万画素、N社211万画素である。画素数で比較するとN社の方が圧倒的に上であるが画質を比較する際にはCCDの1素子あたりの電荷の量やCCDデータを画像に変換する際のアルゴリズムに左右され、CCDの画素数が多ければ多いほど画質が良いと単純に判断できる訳でない。我々のテストでは撮影された画像の分解能に関してはCCDの画素数に比例して分解能は上がるが、色の深み(ダイナミックレンジ)は1素子あたりの単位面積の大きいFT方式のCCDカメラが臨床写真の記録としてはより適していることを印象付けた。しかし、画像入力としてのデジタルカメラはCCDの画素数や変換方式だけではなくレンズやストロボ、ハンドリングの善し悪し等などに左右される事も考慮しなければならない。

 

【図Fig5】Fig2 今回比較したカメラに使われているCCD素子の模式図

左はフレームトランスファーCCD、右はインターライントランスファーCCD

FT:画素で受けた光の電荷をバケツリレーで下へデータを転送

IL:電荷を右の転送ラインへデータを移し、このラインを伝わってデータを送る

FT方式では転送路をもうけなくて良く、1画素あたり約80%を割り当てる事ができるがIL方式では理論画素ピッチの約20%しか画素面積として利用できなく電荷の量もFT方式と比べると少ない。電荷の発電量が多ければそれだけSN比(信号に対するノイズ比)が良く、またダイナミックレンジが広くなり色幅が増す

 

まとめ

ここ数年急速に普及してきたデジタルカメラは、その性能および価格に目を見張るものがある。デジタルカメラの性能の尺度であるCCDの画素数も今や200万画素を上回り、600万画素のカメラも登場しようしている。ちなみに現在市販されているデジタルカメラを使いF社のPICTROGRAPHY(400dpi注意:400と言ってもプリンタの400とは違いPGは1ドットで1670万色出る)で出力すると考えると論文投稿などに使われているサイズ(12Cm×8.5Cm手札)では1890×1339ドットになりCCD約250万画素に相当する。現在市販されている200万画素超えるデジタルカメラではこの条件を満たす事が出来、銀塩フィルムからCCD素子を使ったデジタル画像へ移行時期が到来していると考える。