学会参加印象記

10th Annual meeting of ISSCR 井川 健

ISSCRはInternational Society for Stem Cell Researchという、幹細胞研究の世界では最も大きな学会でありまして、その年次総会がアジアで開催されるのは初めてだそうで、それはひとえに、幹細胞研究における近年の最大のスターである山中伸弥京大教授の存在があるためだろうといわれております。世間的な注目の高さを感じた出来事としては、急遽、学会のメモリアルセレモニーが企画され、天皇、皇后両陛下がご来臨されて行われるということがあり、これは非常に印象的なことでした。

日程は、2012年6月13日(水)に始まり16日(土)までという長丁場でしたが、一日の構成も9時から18時まで隙間なく予定が組まれており、18時から20時過ぎまではポスター会場での討論の時間に充てられるというかなり濃密なスケジュールでした。

若手研究者の育成、交流には特に力を入れているようでした。たくさんのtravel grantが用意されておりましたし、また、20人程度の著名な研究者が一人当たり10人程度の参加者と円卓で食事をしながらお話しをするという形のMeet the Expert Lunchが期間中2日にわたって行われたり、21時スタートの若手(と思う人もOK)研究者用のエンドレスのパーティーが開かれたりしておりました。どれも自由参加で早いもの順(予約システムあり)でした。よいシステムだなと思いました。

日本の学会にみられる懇親会のようなものはありませんで、毎晩18時すぎになると皆がポスター会場にあらわれて、そこではサンドイッチと飲み物程度のものが用意され、21時ころまでこころゆくまでの討論がおこなわれる、というスタイルでした。

さて、2012年6月13日、おなじみのパシフィコ横浜を会場として学会がスタートしました。初日の一発目にもかかわらず、あの広い国立大ホールが満員にちかくなるほどの人を集めてのPlenary Iです。学会の目玉であることは間違いなく、選ばれたスピーカーは4人。Rudolf Jaenisch、Austin Smith、John Gurdon、高橋和利の各先生でした。高橋先生は山中先生の代理という形だったそうですが、十分スターの風格でした。その中でも前2者は、それぞれWhitehead Institute (MIT)、Sanger Institute (Cambridge)と欧米の主要なStem cell研究拠点のリーダーであり、彼らが何を話すのかを皆が大いなる興味をもって聞いているという状況でした。
4人の先生のお話は、もちろん、それぞれに素晴らしいものでしたが(理解できないものもたくさんありましたが)、特にJaenisch先生の話では、これからこの分野の研究を進める上で非常に重要な考え方が披露されており、うわさにたがわぬ内容でとても満足なものでした。

学会全体で口演はおよそ150題ほどでしたが、演題名がそのままNatureやCellなどでみかけたものであったり、今週か来週かのそれらの雑誌に掲載されます、といったようなものばかりでレベルの高さをひしひしと感じました。その中から自分の興味、これからの仕事に関連するような新しい技術のようなものに関する演題にしぼって会場をわたり歩きましたが、完全に理解するところまではなかなか難しく、空いた時間は聞いた内容に関する勉強や復習をしながらのものとなりました。

ポスターの方は2パートにわかれましたが、全部でおよそ1800題という膨大な数でした。顔をみながら率直にやりとりができるということもあり、参加者の大部分の本番はこっちだろうと思われました。毎夕、混雑した地下鉄の中かというくらい大勢の参加者による熱心な討論の風景は、そのままこの学会の勢いを表しており、非常に知的興奮をおぼえたことでした。自分の仕事にも興味を持ってくれる人がおり、いくつかやり取りをしたりして、楽しい時間を過ごしました。

夜は、場所が横浜ということもあり、中華街でおいしいご飯でもと思っていたのですが、学会場を出るのが毎日21時くらいになってしまうために、お店の大部分が閉店となっており、そのあたりは残念な結果となりました。

今回、ISSCRの年次総会が日本で開催されるというチャンスに、久々に心躍る気分で学会に参加してきましたが、噂にたがわず素晴らしい学会でありました。若手の先生には、いろいろな学会に積極的に参加して、世界の広さを実感すると同時に、世の中に存在する自分たち以外の天才たちと交流する機会をぜひとも経験してほしいと思ったことでした。

 
2012/06/13-2012/06/16 in横浜
平成24(2012)年7月3日掲載