教室関係コラム

2012.10.29

日本皮膚科学会三支部学術大会

日本皮膚科学会三支部学術大会

片山一朗

第76回日本皮膚科学会東部支部学術大会
会長:山下利春 札幌医科大学教授
会場:ロイトン札幌
会期:2012年9月29-30日
テーマ「豊穣な皮膚科の世界を歩む」

第63回日本皮膚科学会中部支部学術大会
会長:古川福実 和歌山県立医科大学教授
会場:グランキューブ大阪
会期:2012年10月13-14日
テーマ「めざせ!鉄人の皮膚科学」

第64回日本皮膚科学会西部支部学術大会
会長:秀道広 広島大学教授
会場:広島国際会議場
会期:2012年10月27-28日
テーマ「医学における皮膚科学の役割」

 毎年9-10月は日本皮膚科学会の3支部学術大会が開催されるが、今年は3つの会、全てに参加する機会があった。それぞれの会長の思いが込められたテーマのもとに多くの会員が参加された。それぞれの会で印象的だった講演を聞いて感じたことを記録しておきたい。

第76回日本皮膚科学会東部支部学術大会
 山下教授は悪性黒色腫が専門であり、その基礎研究で大きな成果をあげておられるが、会長講演では御自身が行われてきたHPVウイルスの研究もあわせて紹介された。特別講演はその研究のご縁で、HPVワクチンによる子宮頚癌予防に関する研究で2008年にノーベル賞を受賞されたHarald zur Hauzen教授が行われた。関連して、彼のラボに留学されていた東京慈恵医大の江川清文先生やEthel-Michele de Villiers がHPVに関わる教育講演を行われ、悪性黒色腫よりもHPV関連のテーマが前面に打ち出された学会であった。
残念なのは丁度土曜から日曜にかけて、2つの大型台風が日本を縦断するというニュースがあり、懇親会もそこそこに札幌を離れられた先生も多かったようで、札幌の秋を楽しめなかった先生や札幌医大の関係者の皆様にはお気の毒であった。大阪大学からは荒瀬先生、高橋先生が出題され、特に荒瀬先生は北大時代の知人と旧交を温められたそうで、なによりであった。

第63回日本皮膚科学会中部支部学術大会
 教育講演はすべて「鉄人と学ぶ・・・」というタイトルがつく講演であり、古川教授の思いがこもった学会であった。会長講演では短い時間の中で教室の歴史、現在の研究、未来像を述べられた。和歌山という広い診療圏の中で地域医療の核をなす多くの貢献をされているのみでなく、研究を新たな治療法の創出に絞って行う姿勢で、多くの医局員の先生を指導されておられる古川先生のパワーをあらためて感じた講演であった。
特別講演は本家鉄人の元広島東洋カープの衣笠祥雄選手による「野球から学び、教えられたこと〜プロフェッショナルとは〜」で、広い会場に多くの聴衆が集まった。国民栄誉賞受賞の背景になった連続出場での裏話やプロとしてのサブスペシャリテイーを持つことの重要性を物静かな口調で語られた。
大阪大学からは加藤先生が学会初デビューされ、立派に講演された。また花房先生がシンポジウム「自己免疫疾患up to date」で胸腺腫関連の自己免疫疾患に関する講演をされた。

第64回日本皮膚科学会西部支部学術大会
 3支部学術大会の最後として広島国際会議場で開催された。会長講演では秀先生が広島大学でのアレルギー研究の流れを概説された。初代皮膚科教授の矢村卓三先生は出身は、私の前任地でもある長崎大学で、同門の先生方からは矢村先生に関わる多くの逸話を伺っていたが、日本における皮膚の即時型アレルギー研究の草分け的な先生で、その研究の流れが山本昇壮先生、秀先生に脈々と受け継がれていることを再認識した。秀先生は蕁麻疹のGL作成で中心的な役割を担っておられ、最近は蕁麻疹での凝固系の関与に関わる素晴らしい仕事を展開されている。
学術文化講演は青山学院大学教授で最近は「動的平衡」やフェルメールに関する著作でご高名な福岡伸一さんの「生命を捉えなおすー動的平衡の視点からー」で、私もこの講演をおおいに楽しみにしていた。最初のスライドがルリボシカミキリのきれいな写真で、幼少時代の昆虫少年から顕微鏡を買って貰い、レーエンフック、フェルメールへと興味の中心が移っていくプロセスを、哲学者を思わせる静かな、しかし明確な口調で講演された。氏の提唱される「動的平衡」の考え方はいまや生命化学のみならず経済や政治まで多くの影響を与えているが、今後のiPS細胞を中心とする再生医学の発展にも寄与すると考える。
また特別講演の演者としてカリフォルニア大学のRichard Gallo教授が自然免疫における最新の話題の中で、紫外線による炎症反応がケラチノサイト由来のnon-coding RNAによるTLR3を介する反応であることを話された。乾癬の病因論で治療に使われるビタミンDが抗菌ペプチドを誘導することと同様、光線療法との関わりでこの反応はParadoxicalな現象であり、興味深く拝聴した。また最後のスライドで現在教室から彼のラボに留学している中川幸延先生の名前がクレジットされており、元気に活躍しているとの話を聞いた。大阪大学からは糸井先生、井上先生が発表され、いづれも多くの質問があった。特に井上先生は学会初デビューで強皮症に対するPUVA療法が皮膚硬化のみでなく、趾端潰瘍にも有効ではという貴重なコメントも頂いた。
私自身広島大学の関係者には旧知の方も多く、久し振りの再会を楽しんだ学会でもあった。

平成24(2012)年10月29日掲載

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