教室関係コラム

2014.02.23

第77回日本皮膚科学会東京支部学術大会

第77回日本皮膚科学会東京支部学術大会
2014年2月15〜16日
会長:日本大学医学部皮膚科学系皮膚科学分野 照井正先生

大阪大学医学部皮膚科学教室
室田浩之

 2月に入り、本州を中心に2度も豪雪を伴う寒波に見舞われた。特に2月14日以降の寒波は各方面に甚大な被害をもたらした。東京支部総会は照井先生をはじめ運営事務局の皆様は大変なご心労であったろうと思う。小生は学会内でシンポジストの機会をいただいていたので出席させていただいた。大阪から東京への移動は問題なかったが、東京都心ではかなりの雪が積もっており、多くの参加者は長靴で来られていた。悪天候であったものの1500名もの参加者があったのは本大会の興味深い趣向の賜物と思う。学術大会のテーマは「挑戦する皮膚科学」という前衛的なものだった。「チャレンジレクチャー」と名付けられた基調講演は最新の話題を効率よく勉強するのに役立った。
私は中でも特に東京大学名誉教授の上野川修一先生の「腸、とくに共生する細菌とその免疫系について」という講演の内容に共鳴して体中が震えるような感覚を持った。腸は最大の免疫機関とされる。腸パイエル板には免疫系の発動に必要なリンパ球、抗原提示細胞がすべて揃っており、病原菌の排除に関わる。その排除機構には選択制がある。病原菌は排除されるがラクトバジルスなどの善玉菌は排除されない。この選択機構にTLRが関与している事を大阪大学の審良先生が発見された。腸内細菌と腸管免疫は常に対話している。腸管側の異常は腸内細菌を変化させ、腸内細菌の変化は腸管の機能に異常を与える。私が特に共鳴したのはこの関係に「脳」も関与するという「腸脳相関」と名付けられた考え方だ。腸の異常は脳に影響し、脳の異常は腸に影響をあたえる。腸と脳は互いに独立していながら、腸内細菌叢に由来する代謝産物が迷走神経を介して脳に影響を与え、脳の異常もまた腸管免疫へ変化を与えることで腸内細菌叢に影響する。
最近、腸の興味深い機能が明らかにされつつある。natureでは腸管内を食事が通ることで血液中の好酸球数に日内変動の生じることが報告されたばかりだ。私も皮膚と脳の関係を調べながら強く感じるが、ヒトの体は各臓器が各々恒常性を保つための独立した仕事を行い、各臓器間の調律を整えるのが脳の役割であろうと思う。疲れやストレスなどに伴う脳機能の変調は全身の臓器の調律に不協和音を生じさせるだろう。私たち皮膚科医はそんな症状の一つとして皮膚疾患を診ているのではないだろうか。特に消化管は皮膚と関係が深い。親交の深い上海中医薬大学付属曙光病院皮膚科 張慧敏教授に教わった言葉が思い起こされる。「皮膚の「膚」は「七つの胃」と書くでしょう。皮膚と消化管は深い関係があるんですよ。」まさに点と点が線で繋がるような感動をいただいた学会であった。

さて、私はシンポジウムでアトピー性皮膚炎と汗・温度の関係について話をさせていただいた。悪化因子にはまだまだ未解明な部分が残される。「真実はまことに影法師」。しかし本会に参加してアトピー性皮膚炎治療に立ちはだかる次の壁に風穴を開ける心構えができた。

新幹線の中からみた雪景色

平成26(2014)年2月23日掲載

 

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