学会参加印象記
「テビチを手に考えた私の微小環境」  
第37回日本研究皮膚科学会総会 沖縄にて 室田浩之 
会長:戸倉新樹浜松医科大学皮膚科教授
会場:那覇 ロワジールホテル、パシフィックホテル
会期:2012年12月7−9日

 
「事実は小説よりも奇なり」「百聞は一見にしかず」
これらは私が今回の研究皮膚科学会に参加して感じた印象を象徴的に現すことわざである。これまで生体内における細胞のダイナミックな動態は、見たい細胞が特異的に持つ分子を標的とし、各臓器における分布を核酸あるいは蛋白レベルで確認することで「想像」されてきた。近年の二光子顕微鏡を用いたイメージング解析は、生体内で実際に生じている細胞の動きを映像として示すことができる。PlenaryやOral sessionでは二光子顕微鏡を用いた最近の話題が多く取り上げられ、皮膚において細胞が繰り広げるドラマを映画感覚で見入った。二光子顕微鏡は皮膚のアクセシビリティという利点をうまく利用した観察方法であるが、「どう使うか」にサイエンスのエッセンスが要求されているように思う。選出された演題はいずれもすばらしい視線と発想によるもので大変勉強になった上に、現在私達が行っている研究において大変身につまされるものであった。研究はノンフィクションであるが、発表を身につまされている自分に気づいたからであろう、私の大好きな映画、山田洋次監督の「虹をつかむ男」で西田敏行演じるさびれた映画館を切り盛りする主人公・活男の発する「身につまされる映画っていうのがいい映画なんだよ」という台詞が思い起こされた。現在イメージングを利用した研究をしている松井先生の仕事にもこれらの経験と感動を反映させたいと思う。松井先生のデータはみんなの心を震わせるはずだ。

本会では、私どもと研究してきた大学院生、楊伶俐先生がJSIDのDiploma of Dermatological Scientistを受賞した。楊先生は本当によく頑張った。授賞式ではこれまでの彼女の努力が思い出され感動した。おめでとう。

私達の研究室で寺尾先生は皮膚科学に新しい風とアイデアを吹き込み続ける。今回の寺尾先生の2つのテーマ、糸井先生発表の11betaHSD-1と炎症、加藤さん(修士)発表のGnT-Vと強皮症に関する話題がいずれもOral sessionで発表に選ばれた。糸井先生は前日の飲み会をものともしない堂々とした発表であった(プレゼンの際、レーザーポインターは大幅に揺れていたが・・)。In vitroにおいて表皮細胞が炎症や紫外線などのストレスにさらされた際に生じる11betaHSD-1の発現と活性型コルチゾールの産生パターンは私にとって意外な結果であった点に驚かされた。加藤さんも見やすいスライドと分かりやすい英語を駆使し、大きな会場で発表した。GnT-Vの糖鎖修飾がM2マクロファージ分化に影響を与えることを強皮症の臨床所見から見出し、in vivo~vitroまで一連の結果として報告した。M2マクロファージへの影響を見抜いた着眼点に脱帽する。

私の「温もると痒い」というテーマに関する研究結果が光栄なことにPlenary session発表に選出された。この研究は2006年にスタートした。当時、痒みに関する研究はしていなかった小生に片山教授から「痒みに関して何か研究をしてみないか」と指示いただいた事に端を発する。何を研究するかと悩んだ後、日常診療において常々疑問に感じていた「温もると痒い」メカニズムを解明しようと考えた。そこで引っ張り出してきたのが、2003年に行っていたmacro gene arrayの結果だった。アイソトープP33でラベルしたmRNAを高々500種類くらいの遺伝子断片が乗ったメンブレンにハイブリさせる。Northern Blotの逆バージョンだ。片山教授が「10年かかった」とおっしゃっておられるのはこの実験から、ということであろう。確かに、かつて一部のデータを論文にしたあと4年間眠っていたデータだ。その中で神経栄養因子アーテミンがサブスタンスPによって線維芽細胞から誘導されている事に眼を付けた。当時、修士の学生だった泉さんと調べ始めたところアーテミンの興味深い機能がわかってきた。泉さんは私達と仕事をする中で医師を志したいと考えるようになり、努力の末、翌年にはH大学医学部への編入試験に合格した。私は優秀な仲間を失ったが、気分は感慨無量であった。その後も細々ではあるが臨床業務のかたわら教室の仲間の助けを借りて実験を続け、実験開始から約6年でpublishさせることができた。助けてくれた仲間にこの場を借りて御礼申し上げたい。ありがとう。そして、みなさん、眠っているデータはありませんか?
最近、いろいろなご縁があり、アーテミンに関する研究をこれまで思いつかなかったような新しいイメージング戦略を用いて花房先生、山賀先生と開始した。実験は全く初めてという研修医の山賀先生に手技やマウスのハンドリングを教えながら、失敗や成功に一喜一憂する日々を送っている。時代は回り、受け継がれることに対する期待感が私を突き動かしている。 
学会最終日の夜中、私が大学院生時代に共に研究に励んだ琉球大学の山本先生の自宅にお邪魔し、テビチの入った沖縄おでんと彼のお気に入りのウヰスキーを楽しみながら学生時代や研究、臨床の話に花を咲かせた。私にとって、受け継がれることのない友人との会話もまた原動力となることに気づかされたひとときであった。
平成24(2012)年12月28日掲載