医局員コラム

第26回日本アレルギー学会春季臨床大会
会長:眞弓光文福井大学長 会期:2014.5.9-11
会場:国立京都国際会議場
大阪大学医学部皮膚科学教室
准教授 室田浩之
京都で行われた第26回日本アレルギー学会春季臨床大会に参加した。頭の先からしっぽまで、私にとっては忙しく慌ただしい学会であった。しかし大変勉強しやすいプログラム構成で、新しいインスピレーションを得ることのできた学会でもあった。
西岡めぐみ先生のロドデノール白斑における免疫学的機序を検討した報告は大変聞き応えがあった。CD8+CCR4+T細胞の出現に関するプレゼンは教室内予演の時よりもブラッシュアップされていた。質疑応答には西岡先生の洞察の深さが感じられ、私に様々なアイデアを沸き起こしてくれた。
田原先生には思春期アトピー性皮膚炎の悪化因子としてストレスが大きな問題となっており、そのコーピング能力に関する考察をいただき、小野先生にはアトピー性皮膚炎の汗の質の問題に関して報告いただいた。いずれも私たちの悪化因子に対する取り組みの最新の話題だった。越智先生は寺尾先生と共に研究を行っている皮膚の内分泌学という新しいコンセプトの発表を行われた。皮膚がストレス応答においていかに独立した機能を持つ臓器であるかについて感慨深く拝聴した。
私は教育セミナーで痒みの総括をする機会をいただいた。「痒がる脳」というコンセプトをうまく伝えられたらなら幸いだが・・。
招請講演では京都大学免疫細胞生物学の湊 長博先生のT細胞のsenescence と自己免疫に関するレクチャーを拝聴した。リンパ球の増加過程は大きくantigen-drivenとhomeostatic proliferationに分けられる。antigen-drivenによる免疫反応では大量のエフェクターt細胞が生まれる。この反応は爆発的であり、莫大なエネルギーを要する。通常、T細胞分裂のエネルギーには酸化反応が使われるが、エフェクター細胞の合成に必要な量ではないため、解糖系へのメタボリックシフトが生じると最近報告されたとの事であった。リンパ球の運命を決める抗原暴露に対する生体 反応はかようにエネルギーを浪費するのだと驚いた。爆発的なエフェクターT細胞の増加は胸腺髄質に負担をかける結果、胸腺を萎縮させる。これは老化に伴い、胸腺が萎縮する原因とも考えられる。加齢による胸腺の萎縮に伴い、リンパ球の分画にも違いが生じ、PD1+CD153+T細胞(SA-T細胞)の分画が増えてくる。さらに加齢によってリンパ節にはgerm centerが増え、GC内にB細胞のほかT細胞が混じってくるようになる。リンパ節germ center内のT細胞はfollicular T cellと呼ばれ、SA-T細胞の性質を有する。SA-T細胞は免疫学的にアナジーであるが、加齢に応じて増えるメカニズムはよく分かっていなかった。そこで若いマウスのT細胞を放射線照射によって免疫を不活化したマウスに移入し、移入した細胞の増殖と、ホスト側のリンパ球再構成の双方が観察された。移入されたリンパ球は生体内で急速に増殖し、SA-T細胞の性質を持つことがわかった。このように数を合わせるために生じるリンパ球増殖による代償過程はhomeostastic proliferation と呼ばれる。つまり、生体は胸腺萎縮を代償としながらリンパ球を免疫反応に利用しながら齢を重ねているのだ。皮膚リンパ腫においてもリンパ球はアナジーなことが多い。またアトピーや乾癬に類似したリンパ腫も成人以降に生じる。加齢に伴うリンパ球の代償過程がなんらかの形で損なわれる事が様々な皮膚疾患に関与している可能性があるのではないだろうか。
さて、最終日は浅野先生を委員長とする日本アレルギー学会国際交流委員会肝いりのeast asia allergy symposiumが開催された。私も委員の一人として運営に携わることができた。中国、韓国、日本の交流を大いに深めることができたように思う。

会頭の真弓先生による閉会の挨拶を拝聴し、片付けのはじまった京都国際会館を後にする。4日間に渡る学会場生活も少し懐かしく思える。会場の駐輪場に止めていたバイクは埃をかぶっていた。荷物をなんとかパニアケースに収める。スーツの上からライディングジャケットをまとい、エンジンに息を吹き込み、シフトを1足に蹴り落とすや、颯爽と走り始める。片岡義男さんも言うように、バイクは出発する時にすべてを置き去りにしてくるような感覚があり、これが良い。
黄昏時、京都の風に吹かれ、木の葉のように煽られる私と相棒。翌日の朝から始まる通常業務もなんだかこなせそうな気がした。(おそらく気のせいだろう)

学会中はタブレットにメモを取り、図などは紙に書いてタブレットで写真を撮りまとめます。タブレットは知識の宝庫になりますし、学会参加記も作りやすいのです。
平成26(2014)年5月15日掲載