医局員コラム

75th Annual meeting of Society for Investigative Dermatology (75th SID)
May 11-14, 2016
The Westin Kierland Resort & Spa
Scottsdale, Arizona
大阪大学医学部皮膚科学教室
室田浩之

 アリゾナ州のスコッツデールで開催されたSIDのannual meetingに参加した。まず開催地についてご説明したい。アリゾナはアメリカの南西部で、メキシコに面している。
中心のPhoenix空港からシャトルバスで北に向かう。周りを見渡せば土色の茶色い山々、土色の荒地、その中には高さ4mほどでろうか、まるでヒトの形のようなサボテンが散在している。会場はスコッツデールの北の端 Kierlandにあった。会場の外を歩いていて驚いた。暑い上に呼吸するたびに強い口腔内乾燥が生じる。さらに、おそらく発汗しているが自覚できない。この環境では汗は蒸散することで気化熱による体温調節をいかんなく発揮しているようであった。しかし角層の水分も損なわれているのであろう。顔の皮膚が乾燥し、目尻のシワが痛む。しらべると気温は38度、湿度は6%であった。

今回、山賀先生と研究成果の発表をするため2人で参加した。「暑いなあ」と話しながら会場内に入ると、今度は過激な空調設定のため「すごい寒い・・」と震え上がった。しかし、学会の内容があまりにも素晴らしく、私たちは唇を青くしながらも会場に釘付けとなった。SIDの魅力は皮膚の研究の最先端で活躍している研究者の話を直接聞けることだ。最初の2日間は組織リモデリングに関する最新の話題に酔いしれた。私たちの研究で引用する機会の多いJohn Varga先生、Fiona Watt先生、George Cotosarelis先生、Michael Rendl先生、Michael Longaker先生….等々、私達は講演が終わるたびに「エキサイティングやな・・」とため息をついた。

エキサイティングな理由はこうだ。皮膚のリモデリングには表皮、線維芽細胞、脂肪細胞、血球系細胞すべてが巧みに関わり合っている。そこまでは誰もが納得できる。驚きなのは、各細胞が適宜リプログラムされる過程で、その具体的なメカニズムが次々に明らかにされつつあることだ。例えば創傷治癒後の毛包周囲に脂肪細胞が出現するのだが、この脂肪細胞はmyofibroblastがBMPの作用によってリプログラムされた産物と考えられているらしい。創傷治癒後の毛包再生のリプログラミングはホットな話題だが、そこにはγδT細胞に由来するFGF9が関与しているらしい。意外な役者の登場である。制御性T細胞がmyofibroblastの活性を制御しているとの講演もあったが、その具体的なメカニズムには踏み込んでいなかった。

真皮線維芽細胞の多様性も面白い。多様性は各々マーカーによって規定される。その1つがSca1の発現の有無である。表皮に由来するβcateninの作用で真皮上層の線維芽細胞はSca1が陰性に、真皮深部の線維芽細胞は影響を受けにくいためSca1陽性の表現型となる。Sca1陽性の真皮線維芽細胞は毛包の新生に関わる。もう一つのマーカーはEngrailed-1だ。Engrailed-1 lineage derived fibroblast[EPF]は線維化を生じやすい線維芽細胞で特にCD26+EPFは線維化誘導能力が高いとされる。多くの研究成果で共通していたのはやはりwnt/βcatenin系の重要性、そして線維芽細胞を中心とした細胞のリプログラムが重要であるということだ。特にFiona Watt先生、George Cotosarelis先生、Michael Rendl先生の講演には感服した。特筆すべきはMichael Rendl先生の講演だ。毛包の発生時に毛包が形成される部位の真皮内表皮直下に出現するdermal condensatesの話には鮮烈な衝撃を受けた。皮膚の中で生じているこのミステリアスな現象の正体が解明されれば付属器再生への道が大きく開かれることだろう。そのほか、Luis Garza先生の講演では創傷治癒の際のDanger signalとして壊れた細胞に由来するdsRNAがTLR3の活性を介してwntを誘導し、創傷治癒カスケードを引き起こすとのことであった。HMGB1も含まれるが、danger signal は創傷治療の戦略確立の鍵を握っている。

Eugene M. Farber lectureはNicole Ward先生による乾癬の話だった。”ModelingMayhem-What transgenic mice can teach us about psoriasis pathogenesis”という刺激的なタイトルで、”Mice model, most of them are wrong, but some of themare true!”というメッセージから始まった。ただ内容は極めて臨床的で"乾癬の病態についてFarber先生の提唱されたサブスタンスPと神経の関与に関する理論をわかりやすく紹介された。日常診療における乾癬の見方が変わるような大変有意義なレクチャーだった。

さて、今回、山賀先生の発表がプレナリーに選ばれた。これは大変なことであり、素晴らしく名誉なことだった。詳細は山賀先生の学会参加記を参照されたい。山賀先生は汗腺から汗が漏れないメカニズムについてしっかりしたわかりやすい発表をされた。その後活発な質疑応答があった。座長のSarah Millar先生には本研究を新しい手法で想像していなかった成果を挙げたとのコメントをいただいた。その後も反響は大きく、プレナリー終了後もロビーで山賀先生の周りには人が絶えなかった。Millar先生にも改めて意見を伺い、実験に関するサジェスチョンをいただいた。
さらに山賀先生はSID-JSID collegiality awardを受賞されUniversity ofCalifornia Irvineを表敬訪問する。自分のことのように嬉しい。夢のようなひとときであったが、やるべき課題がはっきりと認識できた。引き続きしっかりと地に足をつけて研究に取り組んでいきたい。



平成28(2016)年5月15日掲載