特別講演「身近なハンセン病


演者 熊野公子先生(くまの きみこ)
 兵庫県立がんセンター参与
座長 谷 昌寛(会頭)
講演 ハンセン病は最近10年間に医学生物学面で急速の進歩があった。最も注目されるのは2001年のらい菌遺伝子の全塩基配列の解読である。(しかしそれは一朝一夕にしてなされたのではなく、遺伝子解析に耐えうる十分の長さのDNAを大量に入手する手段ができてきたからである。それは1971年のアルマジロでの菌増殖の成功であり、1976年のヌードマウスの足蹠での動物接種の成功である。)この遺伝子の解読により、無細胞培地で菌が増殖できない理由の解釈や、感染ルートの解析や、薬剤耐性遺伝子や耐性菌検出法など、多くの成果が得られている。これら基礎医学面における我が国の貢献は大きく、身近かな京都大学、大阪大学、奈良医大などの関西勢が大いに活躍した。
一方、ハンセン病は、宿主側のらい菌に対する免疫形質の相違により、異なる病態(病型)をあらわし、それに相応した診断・治療が求められる。また、治療の過程で急性炎症性のらい反応を生じる。病型をしっかり把握して、どのようならい反応を起こし得るかを予測しておくことが、後遺症を最小にもってゆくためには重要である。ハンセン病の重症度(菌指数が高いこと)と後遺症の重症度は一致しない。
演者は、我が国の療養所におけるハンセン病については、昭和41年医学部卒業時から現在にいたるまで、国立療養所邑久光明園でその臨床を学んだ。因みに昭和41年の光明園の入園者数は901名である。昭和53年には685名、そのうち菌陽性者は102名(15%)である。現在(平成20年)の入園者数は232名、菌陽性者は0名(0%)である。しかし現在もなお時々再発する症例がある。
他方、ほぼ同じ期間に神戸を中心に新発生した患者のうち、演者が関わって一般病院で在宅通院(時に入院)治療したのは14例である。そのうち現在の菌陽性者は3例である。
これら14症例の中には、海外から移住されてきた方々が含まれている。我が国においては、ハンセン病は終焉に向かっているが、全世界的には現在、毎年60万人以上の新患者登録がなされ続けている。今後も身近に新患者に出会う可能性が予想される。
演者
ご略歴
1966年 神戸医科大学卒業
1971年 神戸大学大学院医学研究科専攻微生物学終了
1972年 フランス政府給費留学ブザンソン、リオン大学専攻熱帯微生物学
1973〜87年 神戸大学医学部皮膚科在局
その間に、神戸掖済会病院1年間、新日鉄広畑病院5ヶ月間ローテイト
1987〜07年 兵庫県立成人病センター皮膚科
2005〜07年 兵庫県立成人病センター緩和医療科科長兼任
2007年〜 兵庫県立がんセンター参与
1971年〜 国立療養所邑久光明園診療援助医師
専門分野: 皮膚外科学 特に皮膚悪性腫瘍の手術治療学
ハンセン病 臨床学
所属学会等: 日本皮膚科学会専門医
 日本皮膚科学会皮膚悪性腫瘍専門指導医
日本がん治療認定医機構暫定教育医
日本皮膚外科学会 名誉会員 
 1994年〜2004年 学会会長
 第1回(1985年)、第3回(1988年)
 第20回(2005年)学会会頭
日本皮膚悪性腫瘍学会 功労会員
日本ハンセン病学会 評議員 
第76回(2003年)日本ハンセン病学会会長
日本形成外科学会
日本緩和医療学会
など
主催 第101回近畿皮膚科集談会


 

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