アトピー性皮膚炎治療研究会 第19回シンポジウム  
 

ご挨拶

アトピー性皮膚炎治療研究会第19回シンポジウム
会頭:秀 道広(広島大学大学院医歯薬保健学研究院皮膚科学)

 かつて、ほとんどが就学前の子どもたちに限られていたアトピー性皮膚炎は、1980年代には年長児から若年成人にも多く見られ始め、1990年代には激しいステロイドバッシングの中、道行けば遠目にも分かる様な赤い顔をした人達があちこちに見られるようになりました。アトピー性皮膚炎における食物アレルギーを巡っては、小児科医と皮膚科医は激しく対立し、当時普及しつつあったインターネットでは、ステロイド外用薬の使用を推奨する教授達が今で言う「炎上」の標的にもなりました。
本研究会は、その様な状況の中、アトピー性皮膚炎の治療に従事する医師、コメディカル、基礎研究者、そして企業の人達が集い、より実効性のある治療のあり方を求めて議論を重ねてきました。それから18年、アトピー性皮膚炎診療についてはエビデンスに基づくガイドラインが策定され、タクロリムス軟膏、シクロスポリン内服療法の導入とも相俟って、現在ではかっての混乱は影を潜めたように見えます。
しかし、そのころから根治しきらないアトピー性皮膚炎患者は徐々に年齢を重ね、今では40代、50代のアトピー性皮膚炎はごく普通に見られるようになってきました。また、それ以下の年代の成人、小児でも、ひどいアトピー性皮膚炎のまま標準的治療を拒否し続けている患者は今でも後を絶ちません。一方、病院における在院日数短縮の要請から、以前は当たり前のように行われていた数週間におよぶ入院と、医師が直接軟膏を塗って量や塗り方を体得する機会は少なくなりました。そしてこのことは、患者さんの皮膚に触れることで修得されてきた皮膚科医の技能の低下をもたらしていると思われます。ステロイドは、決して万能薬ではなく、使い方を誤れば様々な問題を起こします。
 アトピー性皮膚炎が治りにくくなった理由をステロイドを使用したことに求める人や、ステロイドを使わないでアトピー性皮膚炎を治癒させたいと願う人は少なくありません。そのためアトピー性皮膚炎治療の実際では、少しでもステロイドの量と強さを減らしたいという患者の希望と、不適切なステロイドの使い方により生じ得る副作用のリスクを、治療上の必要性といかに折り合わせるかという臨床的技能が必要です。もしかすると将来は、医学はその様な夢の根治的治療法を手に入れられる日が来るかも知れません。あるいは生物製剤が隆盛を極める今日、数週間に一度注射するだけでアトピー性皮膚炎の症状が全く現れないということが可能になるかも知れません。アトピー性皮膚炎の根治は、私たち皆の願いです
 しかし、残念ながらまだしばらくは、このやっかいで長く続く病気が根本的かつ全面的に解決することはないでしょう。そのためステロイド外用薬は、これからもアトピー性皮膚炎治療の強力で中心的な治療薬としての役割を果たし続けるでしょう。問題は、ステロイド自体が良い、悪いということではなく、それをいかに使うかという点にあります。本シンポジウムでは、我々はどうステロイドを使ってきたのか、そのどこに問題があったのか、これからどう使っていくことで、どのような恩恵を得てリスクを回避できるのかということを、患者の求めるものとの関係の中で捉え直してみたいと思います。
 そのため今回は、一般演題はすべてポスターとし、3つのワークショップではたっぷり時間をとって議論します。また、近年急速にアトピー性皮膚炎患者が増加し始め、やはりステロイドの副作用とステロイド忌避の現象が起こりつつある中国での現状をJianzhong Zhang(張建中)教授にランチョンセミナーで講演いただきます。多くの皆様のご参加をお待ちしています。




アトピー性皮膚炎治療研究会第19回シンポジウム事務局
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事務局長:信藤 肇